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12 アルツハイマー病の人びとの祈り
3つの詩をご紹介します。
アルツハイマー病の人たちが書いた詩です。
「南風」の職員向けに試訳しました。
アルツハイマー病者の祈り
(Alzheimer's Prayer)
作者不明
神様
訪れてくれる人びとに、わたしの混乱を受け入れる力をお与えください。
わたしの理不尽な行動をゆるす力をお与えください。
そして、かすみのかかった記憶の中をわたしと共にあゆむ力をお与えください。
たとえ訪れてくれる人びとが誰かわからなくても、
その人がわたしの手をとり、しばし一緒に時を過ごせるようお導きください。
あなたがたの忍耐と思いやりは、
いつか、わたしがそれを最も必要とする日々のなぐさめとなっていくでしょう。
訪れてくれる人びとに教えてあげてください ―
彼らが誰かわからなくても、わたしは努力していることを。
彼らがわたしのために悲しまないようお導きください。
わたしの嘆きはそのいっときだけであり、すぐに消えていくでしょう。
最後に、神様、
訪れてくれることがいかに大切であるかを彼らに教えてあげてください。
このきびしい神秘の世界にあっても
わたしには彼らの愛情が感じられるのです。
アルツハイマー病者の祈り
(Alzheimer's Patient's Prayer)
キャロライン・ハイナリ
わたしのために祈ってほしい
かつて、わたしもあなたのようだった。
やさしく、思いやりをもって接してほしい
いつもわたしがそうしていたように。
思い出してほしい
かつてわたしも人の親であり、妻であり、
そして人生があって、夢があった。
わたしに話しかけてほしい
たとえ内容がわからなくても、声は聞こえる。
わたしに話しかけてほしい
もしかしたら思い出すかもしれない。
わたしのことを思いやってほしい
わたしの日々は苦労に満ちていた。
わたしの気持ちをくみ取ってほしい
いまでも感情はのこり、痛みを感じている。
心をこめて接してほしい
わたしもあなたにそうしてきた。
アルツハイマー病になる前のわたしがどうであったか思い出してほしい
わたしは活気にあふれ、人生と笑いがあり、そしてあなたを愛していた。
いまのわたしはどうなってしまったか
病のために感情や考える力、答える力がゆがんでしまった。
しかし言葉にはならないが、いまでもあなたを愛している。
わたしの将来を思ってほしい
なぜなら、わたしはいつも思っていたのだから。
思い出してほしい
わたしにもあなたと同じように希望があったことを。
さまざまな思いが頭の中にとじ込められ、外に伝えることができない
それがどんなにつらいかを考えてほしい。
わたしのことをわかってほしい
つらく当たらないでほしい ― 責められるべきはアルツハイマー病だ。
いまでもわたしは思いやりと触れあいを求めている
そして、なによりも、あなたに愛されることを求めている。
祈りのなかに、どうかわたしを加えてほしい
なぜなら、わたしは生から死への旅上にいるのだから。
あなたが示してくれる愛情は神様からのお恵みだ
だからわたしたちは永久に生きられる。
今日、あなたがどう生きるか、何を行うかは
わたしたちアルツハイマー病者の心にいつまでも残っていく。
わたしの靴をはくまでは
(Till You Walk in My Shoes)
キャロライン・ハイナリ
あなたはわたしの痛みを知らない
痛みがあることさえもわからない
あなたにはわたしのまなざしに浮かぶ痛みが見えない
だって、わたしの境遇にいないのだから
いつもそばにいて手を握ってくれるわけではなく
わかってくれることもない
わたしの靴をはくまでは
心の痛みを訴えても
あなたは聞こうとしない
聞くためのわずかな時間もとってくれない
だから、あなたにはわからない
わたしの靴をはくまでは
むかしの話をしても、あなたはとり合ってくれない
思い出が色あせていくのに、だれも気にかけてくれない
忙しすぎて、わたしの泣き言など聞いていられないのだろう
ただ無視しつづけている
しかし、いつの日か、きっとあなたにもわかるだろう
そして、そばにいて手を握らなかったことを悔やむでしょう
わたしの目をのぞくと見える空虚さ
「あなたはだれ?」と尋ねられたときの無力感
あなたにはわたしの心の痛みがわからない
わたしの靴をはくまでは
現実に引き戻そうとするとき
あなたは不思議に思うでしょう
はたして時がどこまで遡ってしまったのか
だから残っている時間を大切にしよう
すぐに消えていくのだから
アルツハイマー病には慈悲のかけらもない
記憶をごっそり奪いとっていく
それは、だれにでも、いつでも起こり得る
いま、はじめて知ったかもしれないが
あなただって、いつか、わたしの靴をはいて歩くのです