南風の花壇
南風の花壇 河村靖子
手入れのゆきとどいた花壇に囲まれた建物
扉の中に足を踏み入れる
ロビーに飾られている花々が
壺の中から
籠の中から
コップの中から
訪れびとを迎えてくれる
歩を進めると
ふんわり漂うコーヒーの香り
近隣のボランティアの方が
抽れてくれる一杯からは
いつも温かな湯気が立ち上がっている
カップを手にした老人達
テーブルの上に笑顔が咲く
もうひとつの花壇
月に2回、南風で朗読をさせて頂いて2年を経ようとしています。最初に読ませて頂いた本は、宮沢憲治の『いちょうの実』と民話『遠州の七不思議』でした。
これまでに読んだ本は、名作、民話、エッセイ、落語、新聞記事等、範囲は多岐に渡っています。
部屋ではクスッと笑い声がもれたり、シーンと沁み渡ったり、大きくうなづいたり、読後話が弾むこともあり、聞いてくださっている利用者の方々とのふれあいの中で、佳い時間を過ごしております。
朗読の時間は、デイサービスの一日のプログラムの中での「静」の時間。本を読むことでことばが声になり、読み手と聴き手を結び、本の世界を共有していく時間が生まれ、各々の方はそれまでの自分の人生、生活の経験をふりかえったり、あれこれと思い出したり、よみがえらせたりします。
気持の通い合いが表情に表われ、生き生きした空気が生まれる時間でもあると思っています。
今日も体操が終って、ひとりふたりと朗読の部屋を訪れて下さいます。
部屋の中に扇形に並んだ椅子は指定席。車椅子も歩行車も一緒に聞いてくれているこの時間が、これからも穏やかな南風の空間であってほしいと願っております。